The Lessons of Lucasfilm's Habitat
The New Media Reader, The MIT Press, 2003, pp.663–677.(目次) 初出
From Cyberspace: First Steps, 273-301. Ed. Michael Benedikt. Cambridge: MIT Press, 1991.
Webでも閲覧可能
https://gyazo.com/ee43c86841e1e769f6da0706750b8e57
A typical Habitat scene (© 1986 LucasArts Entertainment Company).
Introduction
本文
Introduction
LucasFilmのHabitatプロジェクトは、MMORPGでありユーザは現実世界と同様にコミュニケーションや冒険、ビジネスなどあらゆる活動ができた。このテキストの目的は、このサイバースペースの設計と運営における教訓を次世代に共有し、特に過去の失敗から学んでもらうことにある。 What Is Habitat?
LucasFilmのHabitatプロジェクトは商用のサーバーを用いてオンラインの機能が提供され、他のプレイヤーや世界との相互作用を可能にしていた。ユーザはGUIを通して移動、会話、ジェスチャーやオブジェクトの操作などができ、Habitat内の通過や銀行が整備されていた。 Implementation
The Lessons
サイバースペースの本質的な特徴はマルチユーザ環境であり、サイバースペースを利用するためのディスプレイ技術ではない。複雑なワールドにおいて、抽象度の高い記述を行うためにオブジェクト指向のデータ表現が必要である。オブジェクト指向のデータ通信を行う上ではプロトコルに着目しているが、現在の標準となっているOSI参照モデルの上位層である「プレゼンテーション層」と「アプリケーション層」はあまり有用ではなく、代わりに「メッセージ層」と「定義層」を提案する。 World Building
Habitatの実装には概念の記述方法などの技術的な課題と、ワールドの作成・管理という2つの課題があった。「すべてを事前に計画し、その詳細な仕様に従って直接実装できる」というエンジニア特有の考え方では、相互作用するユーザの集団を含むシステムを実装する場合、1人の人間の頭脳では完全かつ一貫したモデルを維持できなくなる。
Running The World
ワールドの運営において、サイバースペースの設計者は「ゲームデザイナー」のようなプレイヤーの振る舞いを固定化する設計ではなく、「クルーズディレクター」のように多様な活動をプレイヤー自身の選択と動機づけに委ねることが重要である。プレイヤーの行動を観察しそれを支援する姿勢で運営することで、全てを制御しようとするよりも大きな影響力を持つことが分かった。 The Great Debate
Habitatではアバターが銃など武器を使用できるようにしたことで、ゲーム内での道徳的な行動や社会の在り方についての議論が巻き起こった。非暴力を訴える教団の立ち上げや、保安官の設置などの事例を通して活発に議論が交わされ、保安官の権限についてはユーザへのアンケートや投票も実施されたが、システム運用終了までに具体的な実現はできなかった。
A Warning
サイバースペースの制御は積極的にユーザに委ねられるべきだが、一方でサイバースペースの設計者はそのインフラ部分とユーザが体験する世界観を設計することが重要である。システムのバグによってユーザ間に不公平が生まれた場合には運営側での対処が必要であるが、ユーザを興醒めさせないためにシステムの世界観を壊さずに調整を行うことが重要である。
Current Status
本章の執筆時点では、オリジナルのHabitatからそれぞれの国や地域に対応するバージョンが運営されており、それぞれの環境に対応した改変がなされているが、システムの基本的な仮想性やユーザインターフェース、基本概念には大きな変更がない。
Future Directions
このシステムの発展として、2つの観点が挙げられる。
集中型のバックエンドを廃止し大規模なアクセスに対応できる分散型のシステムにすることで、ユーザ規模拡大が望める。
システムの基盤概念を設計・作成するための表現方法の模索によって、ユーザがワールドそのものを構築できるようになる。
Conclusions
サイバースペースで重要な特徴は共有された仮想環境の仕組みであり、ユーザそれを利用するためのディスプレイ技術ではない。この実現においてはオブジェクト指向のモデリングを行うことが重要である。開発の最大の課題はワールドの構築と管理に取り組むことであり、これは中央集権的な手法ではなく、アゴラ的で進化論的なアプローチが推奨される。